20周年記念パーティーでのビンゴゲームの一等賞は、児島ゼミらしくドローン(Drone)でした。ところでみなさん、ドローンというと何を思い浮かべますか?
- アマゾンが配達に使おうとしている無人飛行機
- 首相官邸の屋上に墜落していた無人飛行機
いずれも無人飛行機であることはすでにご存知のところです。同じようなものとしてラジコンヘリがあげられますが、ドローンのように10,000円も払えば気軽に手にできるようなものではありませんでした。
ドローンとは一体何なのか、そしてなぜ今ドローンが注目をあびているのかを実証実験段階のものからビジネス用途になっているものまで、具体例をあげて詳細解説されている本をご紹介いたします。
小林啓倫著、『ドローン・ビジネスの衝撃 小型無人飛行機が切り開く新たなマーケット』 朝日新聞出版、2015年
話題はよく聞くけれど、なぜ話題になっているのかよくわからない、という方は手に取ってみるとドローンが精密に作り込まれたICT技術の産物であることがよくわかります。
章立て
第1章: なぜいま「ドローン」か
第2章 多様化するドローン活用
第3章 システムに組み込まれるドローン
第4章 ドローン・ビジネスのバリューチェーン
第5章 ドローンと規制
第6章 空飛ぶロボットとしてのドローン
おわりに
謝辞
ドローンとは何か
これまでも無人飛行機としては農薬散布に使われているラジコンヘリコプターがあります。また、米軍がアフガニスタンで無人飛行機による攻撃を行ったことも記憶に新しいところです。これらで思い浮かべるのは、まず第一に高価であること、第二に気軽には扱えないものであることです。
ドローンは小型であると同時に、自律性能が高く、操作が従来のラジコンヘリに比べ操作が簡単であることが特徴としてあげられます。また、プロペラが複数ついたものを思い浮かべます。実際、ドローンはほぼローターを複数持つマルチコプターであり、よく目にするものはローターを4つ使用したクアッドコプターといわれます。
有人ヘリコプターでも同じですが、これまでの無人ヘリコプターはメインのローターの他に、縦に回転するテールローターを組み合わせて操縦するものでした。これはとても操縦が困難で、人手の多いところでは簡単に使用することは難しく大きく広がることはありませんでした。これが水平のプロペラを4つにすることで飛躍的に操作性を向上させ、高い自律性能を持つことが可能となりました。
プロペラだけで操作性や自律性能を向上させたのではありません。そこにはスマートフォンの普及も大きく寄与しています。GPSはスマートフォンには当たり前の機能となり、横に向ければ液晶が自動的に向きを変える加速度センサーもあの小さな箱の中に入っています。スマートフォンが普及し小型化し、その技術を取り入れることでドローンもまた小型化、低廉化が進み、今日の認知度を得ることになったのです。
ドローンは何をするものか
イベント会場を上空から空撮した映像や、軍艦島の壊れたビルを縦に上昇して撮影するだけがドローンの役割ではありません。ドローンはドローン単体で活用されるのではなく、大きなビジネスの一部として活用されています。また今後もさらに大きなビジネスを生み出すことでしょう。その点については、第2章:多様化するドローン活用、第3章:システムに組み込まれるドローン、第4章:ドローン・ビジネスのバリューチェーンに詳しく書かれています。いくつか抜粋してみましょう。
精密農業
例えば農業では最近、精密農業という言葉が生まれているようです。ドローンで農地を低高度から撮影して発育状況を把握することができます。映像データを人の手で解析するのではなく、農地を管理する包括的なシステムを構築して直接データをシステムに渡すことが検討されています。そのため、農業系のICTシステムでは、各種データの標準化が進められています。
コマツのコムコネクト
日本では建機メーカーのコマツがコムコネクトというクラウドプラットフォームを提供しています。ここでは測量にドローンが利用されます。山間部の開発の困難なところは正確な測量を行うのに長期間を要することでした。これをドローンで空撮して3次元モデル化してコムコネクトに蓄積します。コムコネクトを使用すれば、人間が1〜2ヶ月かかるような測量でも数時間で終わらせることができるそうです。また、測量結果のデータかも2〜3日間で終了します。
これらのデータを統合してクラウドプラットフォームにアップすることで、次はICT建機の出番です。熟練作業者の作業データから割り出されたアルゴリズムを利用してICT建機が土木作業を行います。
コマツではドローンのオペレータを養成するための訓練までパッケージし、コムコネクトをビジネス展開しています。すでにドローンを販売すればそれで完了ではなくなっています。
インフラ管理として
NEXCO中日本ではスマートメンテナンスハイウェイ構想を立ち上げ、老朽化した橋梁の点検にドローンを活用しそこで得られたデータを統合する拠点を作り上げようとしています。
海外ではアメリカのアラスカ州にあるBPの油田でドローンを使ったパイプラインの点検を行われています(これがFAAが実際にドローンを商用利用する初のケースとなったそうです)。
実例をいくつかご紹介しましたが、ドローンを使って空撮したものを人手に渡してデータ処理をさせるのではなく、ドローンから直接システムへデータを渡して次の作業工程を弾き出すという、データ収集とシステムへの橋渡しを行うまでの存在になっています。
ドローン活用の前と後
いくら以前のラジコンヘリとは比較にならないほど操作性が上がったとはいえ、あくまで飛行機ですので墜落の可能性はゼロではありません。また、現在の航空関連法ではグレーゾーンな部分が多く、実際にドローンを活用するために何を乗り越えればいいのかをコンサルするビジネスも始まっています。
墜落の可能性がゼロではありませんので、墜落に備えて保険の準備も始まっています。DJIというメーカーの最新鋭機ファントム3は三井住友海上から提供される、業務用保険をつけて販売されています。東京海上日動火災保険は産業用無人ヘリコプター総合保険の発表を予定していると書かれています。今後保険の分野はさらにドローンに裾野を広げていくでしょう。空撮用のドローン保険、配送用のドローン保険など、用途に応じた保険開発が期待されます。
ドローンはあくまで機材ですので、他の機械と同様に保守や点検、メンテナンスが必要になります。格納庫に戻ってきたドローンを次に安全に飛ばすための整備は欠かせません。現在はメーカーやドローンビジネスを運営している事業者が自ら保守点検を行うケースが多いようですが、全国に広くサービス拠点を置くことは困難であることは容易に想像できます。そこで、ディーラーではなくモータースのようなサードパーティーの整備、保守点検を提供するビジネスも生まれるでしょう。
実際にビジネスに発展しているものもありますが、ドローンは現在のところまだ黎明期にあります。次のフェイズではドローンのバリューチェーンをどのように繰り広げるかを今のうちから意識している必要がありそうです。
ドローンの規制
先日、2015年4月22日に発生した首相官邸で不審なドローンが発見されたのを受け、ドローンの飛行を規制する改正航空法が2015年9月4日に国会にて成立し、年内に施行されることが報道されました。
免許制や登録制なお課題 ドローン規制法成立 日本経済新聞 2015/9/4 21:32
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS04H45_U5A900C1PP8000/
今後も規制は強まると考えられますし、安全と産業振興のバランスも重要です。それに加えてドローンは無人飛行機ですので電波を使用しますので、どの帯域を使用するかは電波法に関わりますし、土地の所有権では土地上空も所有権があると民放で規定しています。
そしてカメラが搭載された飛行物体が飛んでいるわけですから上空には常に監視カメラが飛んでいるという考え方もあるでしょう。プライバシーの問題も避けては通れません。
まとめ
20周年記念パーティーの景品にしたように、ホビーとしての側面もドローンは持ち合わせています。しかし、それだけでは市場の拡大は頭打ちが目に見えています。一方で目線を広げてみるとドローンはICTを駆使して新たなビジネスを生み出すとともに、これまで経済に大きく寄与してきた重厚長大産業、インフラ産業の維持管理にも新しい一石を投じそうです。
ちなみに、本書の著者である小林啓倫さんは、こちらの本の訳者でもいらっしゃいます。
ピーター・センメルハック著、『ソーシャルマシン M2MからIoTへ つながりが生む新ビジネス』、角川EPUB選書、2014年
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